3. パンやお菓子の基本材料について 小麦粉
ここからは、主な材料について説明します。パンやお菓子を作るのに材料は、非常に重要なことは知っていると思いますが、その性格や使い方などはよく知らずにネットや本のレシピでただ作っている方も多いかと思います。材料をよく知ることでレシピをアレンジしたり新しく作れるようになりさらに楽しさアップですよ。 出来るだけわかりやすく解説しますので、少しずつ覚えていきましょう。 不明な点や質問は、メールにて問い合わせてください。
新しくパンやお菓子作るときは、最初にイメージする製品に合わせて材料を選びます。材料には、それぞれ役割がありそれらを組み合わせて使うことで、製品の性格や味の基本設計ができます。さらに、それらの材料を使いどのような工程で作ると目的の製品ができるか考えて試作をします。この流れを繰り返すことで製品を完成させます。
小麦粉
小麦粉の役割
- グルテンタンパクがグルテン結合して柱を作る。
- でんぷんにより気泡を包み込む
- でんぷんが湖化して気泡を固定化する
- 製品の食感に影響する
小麦粉の構造
材料の中で最も大きな役割と量を使う小麦粉から始めましょう。 小表粉は、一般的なパンや菓子の骨となり肉となる物でこれが無ければ形になりません。小麦は、米と違い胚乳はいにゅうに外皮が食い込んでおりきれいに剥くことができません。その為に製粉して流通しています。小麦には、品種、収穫地、季節によって様々な種類があります。製粉会社によってそれらをブレンドすることで一定の品質の小麦粉を生産しています。
胚乳はいにゅう(小麦粒の約83%)—この部分が小麦粉になります。糖質、タンパク質などが主成分ですが、粒の中心部と周辺部では、各成分の含有量に差があります。
表皮(小麦粒の約15%)—製粉工程のなかで、小麦粉になる胚乳とわけられ、ふすまとなって家畜の飼料に使われます。
胚芽はいが(小麦粒の約2%)—脂質、たんぱく質、ミネラル、ビタミンなどいろいろな栄養素が豊富に含まれています。製粉工程で分離され、健康食品などに利用されます。
小麦粉の分類
日本ではパンや菓子に使われる小麦粉は、次のようにタンパク量と灰分量で分類されています。例 強力粉の一等粉
灰分量は、精米と同じで多いほど不純物が多いことを示します。パン、菓子などには、特等粉、一等粉、二等粉が使われ、二等粉は、パン粉、三等粉は、グルテンやでんぷんの抽出に使われることが多く、末粉は、飼料などに使われます。価格は、灰分量が少ないほど高くなります。
小麦の種類
世界のほとんどの国で栽培されている小麦は、栽培の季節によって「春小麦」と「冬小麦」、粒の色によって「赤小麦」と「白小麦」、また、粒の硬さによって「硬質小麦」「中間質小麦」「軟質小麦」にわけられます。カナダ及びアメリカ産の硬質赤小麦は、たんぱく質の量が多く、パン用小麦の代表とされていますが、うどん用には、中間質のオーストラリア産小麦、国内産小麦が使われています。ケーキなどの菓子には、アメリカ産軟質小麦が使われています。
小麦粉のタンパク量
小麦粉の蛋白(タンパク)の中でグルテンタンパクが90%をしめます。グルテンタンパクには、グリアジンとグルテニンの二つのタンパクがあります。単独で水を含むと、グリアジンは、べとべとしてグルテニンは、硬いゴムのようになります。ところが両方一緒になると伸展性と腰の強さを併せ持つグルテンになります。 パンがふっくら膨らんだり、うどんや中華めんの歯ごたえがシコシコしたりするのは、グルテンの働きです。小麦粉以外の米やとうもろこしなど穀物の粉はグルテンがないので、パンを焼いてもふっくらとふくらみませんし、うどんは、切れてしまいます。
グルテン結合
小麦粉に水を加えると,細胞質の中にある「グルテニン」と「グリアジン」が、それぞれ水を吸って膨潤(ぼうじゅん)し始めます。そして,お互いがからまり合って,だんだんつながって「グルテン」ができ始めます。捏こねていくと「グルテン」が次々につながり合ってだんだんに大きなグルテンのネットワークが作られでんぷん粒を包み込んだ立体的な”網目”のような構造が出来上がります。(上の写真右)
このグルテン結合は、グルテンタンパクが多いほど強くなります。また、よく捏ねることで結合が促進されます。グルテンは、75℃以上で固まりパンの骨格になります。
パンのようにしっかりとした弾力のある製品には、グルテンタンパクの多い小麦粉を使い、ケーキや天ぷらなどサックリと歯切れの良い製品には、少ない薄力粉を使います。
捏ねる量が増えると結合がしっかりするのでケーキ生地を混ぜすぎると食感がねちねちとしてサックリ感がでません。製品にあわせて結合具合を調整する必要があります。ですからケーキや天ぷらの衣などには、グルテンの少ない薄力粉が適していることになります。
小麦粉のデンプン
でんぷんは小麦粉の主な成分で、70%以上含まれています。でんぷんそのものは、ぶどう糖がつながってできた炭水化物で、一直線につながった分子量の小さいアミロースと枝分かれしてつながっている分子量の大きいアミロペクチンによって構成されています。 アミロースの割合が低いほど、粘りがでてきて、またでんぷんの劣化が遅くなります。小麦の場合、通常アミロースの割合は27~29%ですが、中には低アミロースのもちもち感のでる品種もあります。
パンは、小麦粉と水で練られますが、45℃以下ではでんぷんは、あまり水を吸収しません。焼成時にオーブンの中で55~59℃くらいで、でんぷんはまわりにある水分を大量に吸収し糊状になります。この現象をでんぷんの糊化(α化–アルファ化)といいます。95~99℃くらいで水の吸収は止まり、糊化が終了します。でんぷんは、水分量が30~60%で最も老化しやすく、60℃以下の低い温度ほど老化が早く進みます。凍結又は、60℃以上では老化が起こりにくくなります。老化は、糊化(α化)したでんぷんが、温度の低下と共に保持できなくなった水分を放出(離水)して生でんぷん(β化–ベータ化)に戻る現象です。
スポンジケーキ、パンの気孔構造形成に果たす小麦デンプンの役割は、以下の三点に要約されます。この三点のデンプンの役割は、デンプンが低水分の状態で生じる糊化性状に基づくものです。
第1に、小麦デンプンが本来保有する表面の親油性(疎水性)により、気泡を保護して大きな膨張につなげる。
第2に、気泡膜中で粒形を保持したまま糊化して膨張した気泡を固定化する。さらに、気孔壁に脆さを与えて通気孔となる亀裂を形成し、放冷中の温度低下に伴う気孔内外の圧力差を無くす。焼成後のケーキ、パンの大きさ、形状を左右する。
第3に、気孔壁中のデンプンの状態(内層)が焼成後のケーキ・パンのテクスチャー(食感)にも大きな影響を与える。
次回は、水について解説します。