11. パンやお菓子の基本材料について 牛乳

効果

牛乳は、パンや菓子に加えることで味が濃厚に成るだけでなく下記のような効果が有ります。又、生クリームの元であり洋菓子には、不可欠の材料です。

⚪︎栄養の強化
⚪︎味、香りの向上
⚪︎焼き色の向上 (乳糖のカラメル化)
⚪︎醗酵耐性の向上 (PHを上げ醗酵を遅らせる)

牛乳の成分

水            87.75 %
固形分     12.25    固形分の中身— 脂質        3.5 %
プロティン   3.25
灰分        0.75
乳糖        4.75

生乳(せいにゅう)の乳脂肪は、1~10ミクロンの球状で乳化作用のある脂肪球膜に覆われて生乳の中をただよっています。そのおかげで、水と油のように分離することなく生乳の中に分散しています。生乳1ccには、乳脂肪が数十億個含まれています。

乳製品の種類

大きく分けると牛乳(そのまま利用)、クリーム(分離)、粉乳(水分、脂質を除いた物)になります。

牛乳

a. 普通牛乳
牛乳を殺菌処理したもの、生乳に比べ、加熱処理及びホモジナイズ(均質化)されているため、消化は良いが、ビタミンCは殺菌工程で減少しています。現在市販の製品は、超高温殺菌(UHT、135℃2秒)がほとんどです。

b. 練 乳 (コンデンスミルク)
牛乳を1/2~1/4に濃縮したもので、加糖と無糖があり、加糖練乳は全脂と脱脂に分けられ、約40%の蔗糖が混合されます。 加糖練乳は、16~21℃なら約6ケ月完全に保存ができますが、これを過ぎると変色が生じてきます。無糖練乳は、濃縮牛乳のパックや缶詰で24℃以下なら長期保存ができますが、32℃以上の温度では、変色を生じてきます。 又、一度開封したものは、必ず冷蔵庫に保存し、早目に使用する必要があります。 無糖練乳は、エバミルクとも呼ばれます。

クリーム

洋菓子には、欠かせない材料の一つです。生クリームとも言われますが、実際には、殺菌されています。昔は、生乳を放置すると油脂分が上に溜まってくるのでそれをすくい集めたのがクリームといわれていました。現在は、遠心分離を行って作られています。植物性クリームは、植物油に乳化剤や安定剤を添加して作られたもので全く別の物です。

クリームの最大の特徴は、攪拌(かくはん)するとだんだんに固くしっかりして形が崩れなくなることです。クリームの中では、下図のような変化が起きています。

       
かくはん前の脂肪球     徐々に脂肪球が集まってくる  脂肪球が網目のようにのように繋がる

ホイップすると脂肪球膜が傷つき脂肪球どうしくっつき始めます。さらにホイップすると気泡も細かくなりそれらを包み込むように健全な脂肪球も巻き込みながら、網目状に結合して骨格を構成します。クリームは、固くしっかりしてきます。しかし、ホイップしすぎると、脂肪球が壊れ脂肪が大量に外へ出て、クリームが固くなってしまいます(水分や気泡が出ていってしまい脂肪が固まり、バターになる)。脂肪球は、温度が上がると壊れやすいので5~10℃に保ちます。

成分比較

粉乳

牛乳を脱水した全脂粉乳と、脂防分を取り除いた脱脂粉乳があり、一般には、脱脂粉乳が製パン用として、多く用いられています。 製法としては、スプレードライ(高温風の中にスプレーし、下に粉乳が落ちる)方式とロールドライ方式(高温に温めた2つのドラムの間に牛乳を通しドラムについた粉乳をかき落す)があり、 製パン用としては、ミルクによるパンへの害(乳タンパク質によるガス保持力の低下、生地力の低下)を減らすため、乾燥前に熱処理をしたものが市販されています。(80℃以上で無害化)

全脂粉乳               脱脂粉乳

水         2.0 %       水         3.5 %

油 脂      26.8          油 脂       1.0

タンパク   26.6         タンパク   35.6

灰 分       6.0        灰 分       7.9

乳 糖      38.6         乳 糖      52.0

* 加熱処理するとα-ラクトアルブミン(α-La)、β-ラクトグロブリン(β-Lg)とκ-カゼイン(κ-CN)がSS結合して高分子複合体を形成することで無害化すると言われています。

脱脂粉乳の影響 (熱処理したもの)

4~6%使用した場合

o ミキシング時間が長くなる
o 吸水を増加できる(6%までは、同量の水を増量できる)
o 醗酵時間が長くなる(pHを上げるため醗酵が遅れる)
o 製品ボリュームが向上する(生地を強くする効果があるため、ガス保持力を改善する)カゼインタンパクの影響

ホエイ粉(乳清)

ホエイは、チーズを作るとき残る水分です。脱粉に比べ乳糖が多く、カゼインはありません。日本では、あまり使用されていません。

脱粉との比較した特徴

o    クラストが色付き易い (乳糖)
o    乳糖が多く乳酸の発生が多いため、酸味を生じ独得のフレーパーを生じる
o    乳糖が多いため、水分保持が多くクラムが軟かい
o    乳糖が多いので、添加糖を減少できる
o    生地の吸水率は、脱粉より少ない

牛乳の固形成分

牛乳タンパク質
o  カゼインは、牛乳タンパク質の75~80%をしめ、酸によって疑固(ギョウコ)します。 熱では、すぐには疑固しません。
o  ラクタブルミンは、牛乳タンパク質の約20%をしめ、酸によっては疑固せず41℃で疑固を初め、100℃で約85%が疑固します。

乳糖(ラクトース)
o  二糖類(βガラクシタトーゼによりグルコースとガラクトースに加水分解される)
o  弱い甘さ
o  イーストでは醗酵されません
o  バクテリアによって、乳酸が、形成されます。 乳酸が、ミルクを酸っぱくします。

ビタミンと酵素

o  ミルクは全てのビタミンを含み、特にビタミンA、B、リボフラビンを多く含んでいます。
o  酵素を多種含んでいますが、特に重要なものは、
プロテアーゼ — たんばく質を分解します
リパーゼ – 油脂を分解します
酸化酵素 -オキシダーゼとも呼ばれる酸化還元酵素のことです。

ミルクの熱不安定物質

ミルクの熱不安定物質や、パン容積低下因子は、ミルクの中のSHグループ〔Sulfhydryl (-S-H)groups〕(スルフヒドリル基)の還元作用によるもので、そのため生地を弱くし貧弱なパンになってしまう。 ミルクの熱処理が、SHを酸化し、ミルク内のSHグループの量を減少させて還元作用を防ぎ製パン性を改善すると考えられています。

中種法での脱脂粉乳の入れかた

パンを作る時の製法でパン生地を二回に分けて混ぜる方法です。最初に2/3から半分程度粉と発酵を阻害しない材料で生地を捏ね、よく発酵させてから残りの材料を加えて2回目のミキシングをします。脱脂粉乳は、発酵に影響を与えるのでその入れ方のポイントをまとめました。

中種に脱脂粉乳を入れる
o 粉のタンパクが、少ないか 弱い
o 粉のジアスターゼ活生が、強い * ジアスターゼ=アミラーゼ でんぷん分解酵素
醗酵が、早い場合
ブレークタウンしやすい生地

本捏ねに脱脂粉乳を入れる
o 粉のタンパクが、多いか強い
o 粉のジアスターゼ活生が、弱い
醗酵が、長い場合
o 取扱いしにくい生地の場合