コロナウイルスワクチン ワクチン mRNA とは

ワクチン

ワクチンは、ターゲットとした病原菌やウイルスに働く抗体を体内に意図的に作るための医薬品です。身体の免疫機能を最大限に利用して感染しにくしたり、重症化を防いだりします。
人の体に病原菌やウイルスなどの病原体が体に入ってくると病気になったり最悪死んでしまいます。病原菌やウイルスと戦って防御するのが、人体が生まれながらに持っている免疫機能です。
ワクチンは、体に最初に菌やウイルスが侵入すると免疫細胞が抗体を作ります。その特徴をメモリーして、次に同じ菌やウイルスが侵入してきたときに抗体を素早く量産して対抗する免疫機能を利用して働きます。

ワクチンは、菌やウイルスを病気にならない程度に弱くしたり、あるいは害のないように特徴だけ残したものをあらかじめ体内に入れて免疫機能にメモリーさせて本物の菌やウイルスが入ってきたときに戦えるように体に準備させておくものです。ワクチンは、菌やウイルスの種類に合わせて用意する必要があります。

フランスの微生物学者で化学者のルイー パスツール(1822~1895年)は、人体の免疫力を使い“強い病気を起こすものから弱い病気を起こすものを人工的に作り出してそれをワクチンにする”という現在でも広く普及しているワクチンの原理を構築しました。

 

最初のワクチン

オスマン大国では、天然痘の患者の膿疱から抽出した液を健康な人に接種して予防していました。(人痘接種法)  1721年にイギリスの大使が帰国して広めましたが、2%の人は重症化して死亡していたそうです。1796年、イギリスの開業医エドワード・ジェンナーは、18年の研究の結果牛痘(牛がかかる天然痘で症状が軽い)を用いた天然痘予防接種を使用人の息子で試し成功を収めました。1798年に論文を発表しその種痘法は、広くヨーロッパに広まり多くの人の命が助かりました。

フランスのパスツール1880年狂犬病の研究を開始、1881年にロンドンの国際医学会で免疫による予防の研究発表をした際に、この種の予防製剤を、天然痘予防のための牛痘種痘法vaccinationを発明したジェンナーの栄誉をたたえてvaccinとよび、その接種をvaccinationと提案して承認されました。ワクチンは、その日本語表記です。ちなみに英語のスペルも同じです。その後古典的な種痘から生ワクチン、そして生ワクチンから不活化ワクチンへと変わり、安全性についても向上しました。

ワクチンのタイプ

現在使われている主なワクチンには、下記のようなものがあります。

生ワクチン
生ワクチンとは、生きたウイルスや細菌を、症状が出ないように、体内で免疫が作れるぎりぎりまで病原性(毒性)を弱めた製剤です。自然感染と同じように免疫ができるので、1回の接種でも充分な免疫を作ることができます。ワクチンの種類によっては、自然感染より免疫力が弱いので、追加接種したほうがよいもや、2~3回の接種が必要なものもあります。
副反応としては、もともとの病気のごく軽い症状がでることがあります。

使われている病気
結核、麻しん(はしか)、風しん、おたふくかぜ、水痘(みずぼうそう)、ロタウイルス感染症、黄熱病 など

不活化ワクチン
不活化ワクチンは、ウイルスや細菌の病原性(毒性)を完全になくして、免疫を作るのに必要な成分だけを製剤にしたものです。接種しても、その病気を発症することはありませんが、1回の接種では免疫が充分にはできません。ワクチンによって決められた回数の接種が必要です。

使われている病気
B型肝炎、A型肝炎、インフルエンザ、ヒブ感染症、百日せき、日本脳炎、小児の肺炎球菌感染症、ポリオ、髄膜炎菌感染症、狂犬病 など

トキソイド
この毒素の毒性をなくし、免疫を作る働きだけにしたものがトキソイドです。不活化ワクチンとほとんど同じです。
感染症によっては細菌の出す毒素(トキシン)が、免疫を作るのに重要なものもあります。毒素を取り出し、免疫を作る能力は残して毒性が無いようにしたものです。不活化ワクチンとして分類されることもあります。

使われている病気
ジフテリア、破傷風のワクチン

mRNA(メッセンジャー・アールエヌエー)
 mRNAワクチンは、抗原を特定した液性免疫(獲得免疫)と自然免疫の両方を機能させて抗体を作り戦う今までとは違う製剤です。これまでのワクチンは免疫学のワクチンでしたが、mRNAワクチンは、分子生物学が詰まったワクチンです。mRNAワクチン技術は、将来的には他の病原体や、がん細胞に対しても期待されています。
前回説明したように新型コロナウイルスの表面には「スパイクたんぱく質」(spike protein)と呼ばれる突起があり、この突起が細胞にくっつくと感染します。mRNAは、この突起の部分のいわば「設計図」にあたります。コロナウイルスのDNA遺伝子情報からmRNAの部分のみを生成して使用します。
ワクチンを接種すると、mRNAがヒト細胞に入るとの中でウイルスの突起の部分だけが細胞質内でmRNAの情報でアミノ酸の鎖からタンパク質が作られ角が伸びるようにスパイクタンパク質を形成します。すると、この突起に反応して免疫機能が働き、ウイルスを攻撃する「抗体」がつくられるのです。この細胞は、キラー細胞などにより消滅します。それとともに次の侵入に備えてこのウイルスが侵入したらすぐに抗体が作れるように情報が保存されます。

 

抗体を作る時には、熱を持つなどの副反応がでます。副反応は、どのワクチンでも抗体を作るので起きる反応です。反応の強さは、人によって違いますし、ワクチンの強さによっても違いますのであることが正常だと思っていた方が良いと思います。ファイザーワクチンでもすべての人に同じように抗体が作られるわけでは無くほとんど作られない人や作られても弱い人など抗体の強さもバラバラですので接種したからといって安心は、できません。

mRNA自体は、体内に入るとすぐに分解されるので脂肪カプセル(脂質ナノ粒子)の中に組み込まむことですぐに分解されることを防いでいます。その他にワクチンは、温度上昇や振動によりmRNAの鎖が解けて分解され役に立たなくなるので極低温保管、低振動輸送が必要です。

mRNAのメリット

開発速度が速い
今までのワクチン開発は数年から数十年という長い時間がかかり、複雑でコストのかかる製品です。ウイルスのDNAを解明できればそこからスパイクタンパク質を生成させる指示部分のみをコピーしてして作り出しますので生のウイルスを利用しません。

安全性が高い
mRNAワクチンはウイルス抗原を符号化した遺伝子情報を送りますが、ヒト細胞の遺伝子に組み込まれたり、DNAに作用することはないため、体に変異リスクがありません。
mRNAワクチンにはウイルス自体の情報がないため、mRNAワクチンによって、予防対象の疾患を引き起こすことはありません。コロナ用のワクチンでコロナに感染することは、ありえません。
mRNAワクチン接種後の抗原の発生は一時的であるため、体内における存続は限定的です。抗体を作った情報は、残り次の侵入に備えます。

mRNAワクチンの注意点

ワクチンのmRNA鎖が意図しない免疫反応を引き起こす可能性があります。これを最小限に抑えるため、mRNAワクチン配列は人細胞のmRNA配列を模倣して最適化されています。しかし、そもそも人体は、解明できていない部分が多くどんな製剤でも予想していない副作用が発症しますのでそういうことでは、注意が必要です。しかし、おそらく今までの歴史でこれだけ多くの人に使われて治験が得られたワクチンは、ないと思います。その面では、遅れて接種している日本ではほぼ副反応などが分かっているのでほとんどの人には、デメリットよりメリットの方がはるかに大きいと思います。

 

遺伝子への影響は

mRNAの技術は、遺伝子組み換え技術のように生物の遺伝子の一部を、他の生物の遺伝子に組み込むことではありません。

ヒトの細胞の中にはたくさんのmRNAがあり、もともとmRNAが人のDNA(遺伝情報)がしまってある「核」の中には入ってこられないようになっています。細胞質内までです。

ワクチンを使ってmRNAを注射しても、基本的にヒトの遺伝子(染色体・DNA)がある細胞の核の中に入り込むことはできません。また、ヒトの細胞にはRNAをDNAに変換(逆転写という)したり、そのDNAをDNAでできた染色体に組み込んだりするための酵素(インテグラーゼという)もないため、ヒトの遺伝子(染色体)に変化を起こせません。

コロナウイルスワクチンは、接種して大丈夫?

世界中でこれだけ大規模に接種しており、接種してはいけない人は大体絞られてきていると思います。色々なデーターや科学的にも接種した方が良い人がほとんどだと思います。ただし、何事にも完全なものはありません。 日本でも有名な免疫学の先生が、昨年は打たないと言っていましたがその後データーが揃ってきて有効だと判断してワクチンを接種しました。もっとも接種しても感染しないわけではなく、マスクしなかったり大勢で集まったりすることは感染のリスクがあるこは問題です。

不安があるようなら接種しない選択もあると思います。 接種派と接種拒否派がいがみ合い押し付け合うこと無く互いに自分自身で判断されれば良いのではないかと思います。ただ、感染リスクや重症化リスクは接種した人より高いので日々注意が必要です。

mRNAの歴史

医学界で研究されている方は、ほとんどの方が人を助けたいという気持ちでお金にならなくても研究を続けています。 mRNAワクチンも困難にあいながらも長年研究を続けた女性研究者の存在があります。

ウイルスからヒトまでほとんどの生物は遺伝子(DNA)を持っています。DNAは、主に、生命活動の維持に不可欠な、タンパク質を合成するための設計図として機能しています。DNAの遺伝情報は、メッセンジャーRNA(mRNA)へコピーされ、mRNAの情報をもとにタンパク質が作られます。この「DNA→mRNA→タンパク質」という細胞内における遺伝情報の流れは、普遍的な反応であるため、“分子生物学のセントラルドグマ”と呼ばれているそうです。

mRNA(メッセンジャー・アールエヌエー)の存在は、半世紀前から知られていました。最初にその存在を指摘したのは、フランス人の生物学者ジャック・モノーとフランソワ・ジャコブで、その後アメリカの遺伝生物学者のマシュー・メルセンが、mRNAの存在を実証しました。彼らの功績は、DNAに書かれた情報がmRNAを介してタンパク質の合成にいたるという分子レベルの仕組みを解析したことです。

ハンガリーの女性生化学者カタリン・カリコ博士は、この仕組みに注目しました。mRNAがタンパク質を合成するという仕組みを利用すれば、将来必ず医療に貢献できると考えたのです。大学卒業後アメリカに渡り、遺伝物質の1つ「mRNA」の研究を続けました。40年にわたる研究生活は、業績が認められずに研究費が打ち切られるなど苦難の連続でした。2005年に、当時同僚だったドリュー・ワイスマン教授と、今回のワクチンの開発につながる革新的な研究成果を発表しました。

遺伝物質「mRNA」は、体内に入れるとすぐに分解されるほか、炎症反応を引き起こしてしまうため、長年、薬などの材料として使うのは難しいと考えられていました。しかし、カリコ博士らはmRNAを構成する物質の1つ「ウリジン」を「シュードウリジン」に置き換えると炎症反応が抑えられ抗体が作られることを発見したのです。これも注目を集めることはなく厳しい研究生活が続きました。

しかし、ドイツの企業ビオンテックはこの研究成果に注目し2011年、彼女をドイツに招き、研究を続ける契約を結びました。

この技術を用いて2020年、新型コロナウイルスのワクチンが開発されました。

mRNAについてさらに詳しく知りたい方は、こちらも参考になります。

米国化学会

https://www.cas.org/ja/resource/blog/covid-mrna-vaccine

国立感染症研究所

https://www.niid.go.jp/niid/images/plan/kisyo/5_Hasegawa.pdf